心にきみという青春を描く




「……俺だって、誰でもよかったわけじゃない。詩織は頭がいいし並んで歩いても恥ずかしくないし、休日にデートしてても詩織は大人っぽいから違和感がないだろ」

村尾さんはそう言いながら、ずれた眼鏡をかけ直した。


「詩織は文句も言わないし、ワガママも言わない。連絡だってしつこくないし、この時間はダメ、この時間ならいいって伝えればきっちりと守る。そういう物分かりがいい子だと思ってたんだよ。だから俺が困るようなことはしないし、一番俺のことを分かって……」

「もういい」

「……え?」


「もう、お前が笹森の名前を呼ぶな」


そう言って、松本先輩はもう一回村尾さんのことを殴った。


「お前は笹森の気持ちを一度だって考えたことはないだろ。お前のことが好きだから物分かりがいいふりをしてただけだろ。なんで分かってやんねーの?分かれよ、そのぐらい」


松本先輩の言葉に、私のほうが泣きそうになってしまった。

先輩の言うとおりだ。

詩織先輩はきっとたくさん我慢してたし、不安も不満も村尾さんには言わなかった。それは物分かりがいいってことじゃない。

自分の感情を押し殺してでも村尾さんのことを困らせたくなかった。そんな気持ちさえ、この人は理解しようともしていない。


「……俺はべつに悪いことはしてない。詩織のことは大切にしてたし、彼女として扱ってた。なのになんでこんな責められなきゃいけないんだよ!」


逆上したように村尾さんが真っ赤な顔になる。松本先輩はもう手を挙げなかった。その代わりに……。


「わかんねえなら、お前に笹森はやらない。幸せにできないなら、俺があいつのことを幸せにする」