「笹森は本気でお前のことが好きなんだよ。そっち側に引っ張ったのはお前だろ。半分ずつってなんだよ。付き合ってんなら笹森に全部やれよ」
松本先輩は誰よりも詩織先輩のことを想ってる。本当はこんなこと言いたくないはずなのに、尊敬するほどカッコいい。
「……ムリだよ」
強気の先輩とは真逆に、村尾さんは弱々しい声だった。
「俺は妻と別れる気はないよ。きみはまだ子どもだから分からないけど、結婚っていうのは奥さん以外の繋がりもあるんだよ。世間体もあるし、向こうの両親には色々と工面してもらってるし、それを断ち切るなんてできないでしょ」
「なら、はじめから奥さんで満足してりゃいいだろ」
「それも大人になったら分かるよ」
すると、松本先輩がグイッと村尾さんの胸ぐらを掴んだ。慌てて間に入ろうとしたけれど、なぎさ先輩が制止する。
「大人になったら分かる?そんなもん、分かりたくねーよ」
村尾さんは苦しそうな表情をしているけれど、松本先輩は手を緩めることはない。
「大人子どもって、さっきからうるせえんだよ。子どもだから笹森が思い通りになると思ってたのかよ。別れるつもりもないのに口先だけで笹森を繋ぎ止めて。結局、お前は家族を壊さない程度に息抜きできる存在がほしかっただけだろ?笹森のこと、都合がいいって思ってたんじゃねーのかよ」
「……まあ、そうだね」
「……っ」
その瞬間、バコッと鈍い音が店内に響いた。先輩に殴られた村尾さんはそのまま床にしゃがみこむ。
「てめえ、笹森のことなんだと思ってんだよ!!」
村尾さんを見下ろしながら、先輩は固く拳を握りしめていた。



