「なんか拓人元気なくない?頭でも打ったのかな」
なぎさ先輩が松本先輩の後ろ姿を見ながら言う。
……頭、打ちました。めちゃくちゃ重い衝撃でガツンと。
「なつめもこのあと予定あったりする?」
「付き合いますよ。私もお腹空きましたし」
あと、先輩ともう少し一緒にいたいから。
「でしょ?俺、何度もお腹鳴っちゃった」
先輩は予備校ではあんなに気だるそうにしていたのに、今はもうニコニコとしている。
「なに食べたい?」なんて、先輩はスマホで近くのお店を探しながら歩きだす。私はそんな横顔を見て、ぽつりと呟いた。
「……先輩は、恋をしたことがありますか?」
すると、スクロールする手がぴたりと止まる。
「どうしたの、急に」
分からない。分からないけれど、今どうしても聞きたくなったのだ。
「あるよ、人並みには」
先輩は思いの外あっさりと答えてくれた。
「恋をすると先輩はどうなりますか?」
「べつにどうにもならないよ」
「でも、好きな人にだけ見せる一面がひとつぐらいはあるでしょう?」
「あるのかな。自覚したことないけど、なんでそんなこと聞くの?」
次にぴたりと歩く足を止めたのは私。なんだか今、恋について深く考えてしまう。
詩織先輩のキスを見てしまったからかな。それとも松本先輩の気持ちが分かるから?
上手くいってる人の影で、泣きたくなるほど落ち込んでる人もいる。それが、きっと片想い。



