「あ、いた。ふたりともどこに行ってたのよ」
鉢合わせしないようにロビーへと向かった私たちの瞳には、いつもどおりの詩織先輩の姿。
「す、すいません!私が途中でお腹痛くなってしまって」
あはは、と誤魔化すように私は嘘をついた。
「え、お腹?大丈夫?休んでから帰る?」
「もう平気です。治りました!」
「そう?また痛くなったらすぐ言ってね」
詩織先輩の優しさに心苦しくなりながらも、隣からはひしひしと負のオーラが漂ってきている。
「松本先輩も具合悪いんですか?」
詩織先輩が尋ねると、「いや」と先輩は覇気のない返事をするだけ。
落ち込んでるなんてレベルじゃない。好きな人のキス現場を目撃してしまったんだから当然だ。
いつも誰よりもパワフルで声の大きさがトレードマークの松本先輩がこんなにも小さく見えたのは初めてのこと。
今はどんな言葉をかけても効果がない気がするし、もし私がなぎさ先輩のキス現場を見てしまったらと想像したら……。
たぶん私は立つこともできない。
「ねえ、俺お腹空いちゃったんだけど」
予備校を出て駅に向かってる間も、松本先輩は怖いぐらい無言だった。なのに、なぎさ先輩は相変わらず。
「すいません。私は予定あるんでこの電車に乗って帰ります。皆さんお疲れさまでした」
詩織先輩は均等に分けたキャンバスの紙袋をぶら下げて、颯爽と駅の改札口へと消えていく。
「俺も帰るわ」
魂が抜けたように松本先輩はフラフラと歩き、同じように駅の中へと歩いていった。



