心にきみという青春を描く



「……というか、詩織先輩がいませんね」

デザイン科の人にキャンバスを貰った時には隣にいたのに。


「あれ、本当だ。どこいった?」

話すのに夢中だった松本先輩もキョロキョロとしはじめる。

迷った、なんてことは詩織先輩に限ってありえないから、もしかしたら私たちが先に進みすぎてしまったのかもしれない。


「歩いてきた廊下を戻ってみましょう」

「だな。早く合流しないとまた怒られそうだし」


とりあえずデザイン科がある二階へと向かい、すでに始まっている各教室の授業の邪魔にならないように、紙袋の音さえ気をつけて歩く。

すると、【総合美術】と書かれた教室のドアが半分だけ開いていて、中から人の声が聞こえた。


「忙しいのに今日はありがとう」

「いや、俺のほうこそ楽しかったよ。最近は見学に来てくれる生徒も減ったし、西口にできた新しい予備校に生徒が流れていってる状態だからさ」

「最近、徹夜が多いのもそのせい?無理してない?」

「大丈夫だよ。会う時間は減らすつもりないから」


会話からして授業の声じゃない。覗き見は悪いと思いながらも、ちょうどドアの隙間から男女の姿が目に入ってきて、私と松本先輩は自然に足を止める。そして……。


「今日、電話するから」
「うん、待ってる」

まるでドラマのワンシーンのようにふたりは見つめ合い、そっと唇を重ねた。


……ドクン、と心臓が跳ねたのは、きっと私じゃなくて隣の松本先輩のほう。だって、だって……。


「詩織、帰りは気をつけてね」

「健一さんも授業頑張って」


だって、キスをしていたのが詩織先輩と村尾さんだったからだ。