「三上くんは?」
最後に質問されたのは、なぎさ先輩。
先輩はずっとカンガルーポケットに両手を入れたまま。一度予備校には行かないと断ってるだけあって、あまり興味がないようにも見えた。
なぎさ先輩はじっと課題にされたものを見ながら、ぽつりと呟いた。
「……俺だったらコップですかね。一週間あるならひたすらコップの透明感を追求しながら描きます」
先輩ならコップだろうなって思ってた。一番シンプルで、一番難しそうなものを選ぶ気がしてたから。
「なぎさは追求したらしつこいからな」と、松本先輩が茶化すように肩を叩き、「こだわりって言ってよ」と、なぎさ先輩は呆れ顔。
すると、なぜか村尾さんが前のめりになって、先輩に詰め寄る。
「なぎさって……。きみ、三上なぎさくん!?」
「そうですけど……」
なにやら村尾さんのテンションが上がっていた。
「きみのことよく知ってるよ!中学の各コンクールで賞を総なめにして、全日本のコンクールで最優秀賞獲ったよね?」
「………」
「あの会場に俺も行ったんだけど、あの絵は本当にすごかったよ。あのモデルにした女の子は元気?本当にあんな素晴らしい人物画を中学生が描いちゃうんだもんな。いやあ、あの時は大人げなく嫉妬したよ」
ペラペラと喋る村尾さんとは真逆に、先輩はニコリともしない。
「べつに昔のことですよ」
……こんなに、冷めた顔をしてる先輩は初めて見た。
まるで、触れられたくないことを突っつかれているような、そんなイヤな顔だった。



