「松本先輩は芸大に行くんですか?」
「まだ考え中だけど、大阪の大学に有名な彫刻家の教授がいてさ。本気で彫刻やるなら、そこで学びたいかなって」
「大阪、ですか」
考えてみれば先輩は高三だし、進路を決めはじめるのは当たり前のことだ。けれど大阪なんてすごく遠いし、そんな選択を頭に入れてるなんて全然知らなかった。
「まあ、ぶっちゃけ都内の大学はハードルが高くて受かる気しないだけなんだけど」と、笑う先輩がやけに遠く感じる。
「安心しろ。なぎさはどんな進路選んでも遠くに行くタイプじゃねーし、卒業しても会える距離だよ」
それでも、バラバラになってしまうなんて寂しいです、と言いかけた私は幼いのだと思う。
先輩たちが卒業してしまう未来を想像して落ち込んでいる中、ロビーのエレベーターの扉が開いた。
「ごめん、遅くなって」
現れたのは30代ぐらいの男性。淡いブルーのシャツにストライプのネクタイをして、首からは名前入りの社員証を下げていた。
「こんにちは。初めまして。ここで講師をしている村尾健一(むらおけんいち)と言います」
笑顔が爽やかで、黒淵メガネが印象的な人。



