あたしは庭に誰もいない事を確認し、足音を忍ばせて犬へと近づいた。


犬はより一層大きな声で吠え始める。


けれど普段からよく吠えているからか、家の中から飼い主が出て来る気配はない。


犬のエサ入れの中を見てみると中は空になっていた。


あたしはポケットから小瓶を取り出し、一滴エサ入れの中に垂らしてみた。


ピンク色の液体が銀色のエサ入れの中に広がって行く。


それを見た犬が興味を持って近づいて来た。


飛びつかれると思い、咄嗟に後ずさりをする。


しかし犬はエサ入れに顔を突っ込み、舌で惚れ薬の味を確認し始めたのだ。


あたしは犬との距離を保ったまま、その様子を見守った。


エサ入れの中の薬が無くなったのか、犬は興味を失い自分の小屋へと戻って行く。


なんだ、やっぱり効果はないんだ。


そう思った次の瞬間だった。