僕はその日まで、彼女の絵を覗き見程度でしか見たことがなかったが、あらためて、彼女は本当に絵がうまいと思った。
絵の中には、背中を向けた黒髪の少女が下半身を水の中に浸り身体を清めている。
水面にはたくさんの花が浮かんでいて、花弁には、鮮明で美しい色付けがされていた。
「この絵の女の子、マキさんがモデルなんだろ?
多分、インドのガンジス川で、沐浴をして身体を清めているところ」
僕が後ろから声をかけると、彼女は一瞬だけ僕を見てこくりと頷いた。
熱心に筆を走らせる彼女にとって、僕の言葉は少し気が散ったのだろうか。
「ごめん。邪魔したね」
僕はそう言い残して席に戻った。
彼女は僕に構わず、黙々と絵を描き続けた。



