春爛漫。
桜、チューリップと自分の知っている花が満開以上になって、花弁を舞わす頃に隣県までネモフィラという、僕にはあまり馴染みない花を見に行くことになった。
“ちょっと遠出”のときは大体、有給を使って平日にのんびりと行く。広い有料の公園は、それでも人は少なくなくて、公園内に咲く花々を愛でている。
僕らも散歩がてらゆっくりと園内を歩いて、やがて目的のネモフィラ畑まで辿り着くと、その圧巻の光景に目を奪われた。
真っ青に咲き誇るその花は、可憐で、けれど一面に広がる様は雄大。
「空の青より一つ深い青かな」
「空に溶け込む青でもあるかも」
中心が白くて少しグラデーションがかって青くなる花弁。さながら、天国のようだ。
「なんか空を歩いてる気持ちになるかも」
「確かに。似たようなこと考えてた」
似たような思考をしていた僕らは、笑いながら散歩を続ける。晴れた空が眩しい、穏やかな日だ。
「……陽奈子、ちょっと痩せたんじゃない……?」
穏やかだからこそ。
優しい日だからこそ目立つ、陽奈子の、細さ。
痩せているのがいいとか、悪いとかじゃなくて。ここのところの痩せ方と、食の細さ。そして何より頻繁にある胃痛。
「そうー?心配し過ぎだよ、学くん」
「心配し過ぎだって思われてもいいから、ちゃんと病院行きなよ」
「まだ痛いのが続きそうなら行ってみるよ。それよりほら!ネモフィラ見よう」
「そうだね。せっかく来たから」
「ね!」
陽奈子は自分のこと過ぎて“そんな事”よりも目の前の花に夢中だ。確かに、せっかく来たのだから楽しまなくてはもったいない。
ゆっくりと堪能すればゆうに昼を過ぎ、園内にあるレストランで食事をすることに。
さすが公園内のレストランとあって、メニューは洋食和食と網羅している感がある。レストランというよりはフードコートのラインナップに似ている気がする。
陽奈子はふわふわかき卵のうどん、そして僕はメニューに載っていた煮込みハンバーグが美味しそうだったのでそれぞれ注文すると食事を楽しんだ。
「さすがに、暑い」
「日があると暑いね」
グツグツに煮えたハンバーグと熱々のうどんを食べた洗礼は外に出るとすぐやってきた。
日陰を探しながらせっかくなのでもう一周ゆっくりと園内を散歩して、夕暮れ前に帰路につくことにした。
1時間弱のドライブで心地よくなったのか陽奈子は眠そうだ。
「寝てもいいよ?起こすから。あと15分くらいかな」
「うーん、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、ごめんね」
実際眠りにつく姿を見ると、眠くは無いはずなのにあくびが出た。眠たくなくても出るあくびは、脳が酸欠なんだとか言うけれど、本当のところは未だ原因不明らしいというのは本当なのだろうか。
話し相手もいなくなり、脳内にくだらない問答が行われそうなので少しだけ音楽のボリュームを上げさせてもらった。
カーステレオからはカーペンターズが流れている。
カレンの歌声は耳に優しく、僕も口ずさんでいた。



