それでね、と私は言い募る。


「いまもう一回、聞いてくれないかな。そしたら私、今度はちゃんと本心で『そんなことない』って言えるから」


顔を上げると、狼谷くんと目が合った。
彼は脱力姿勢からすっかり戻っていて、私の顔に視線を向けたまま固まっている。


「あ、あと前に狼谷くん自分のことクズって言ってたけど、あの時ちゃんと否定しなくてごめんね。狼谷くんはクズじゃないよ」


そこまでまくし立てて、一度酸素を取り込んだ。

うん。これで全部負い目というか、やましいことはなくなった。
ちゃんと彼への認識を改めよう。そして一年間、上手くやれるように頑張ろう。

一人で勝手に完結して意気込んでいると、向かいから小さい呟きが聞こえた。


「……面と向かって俺のこと『いい人』とか言うの、羊ちゃんくらいだよ」


それがどこか自嘲気味な響きをはらんでいて、少し不安になる。
彼は大きく息を吐き出して、ゆるく首を振った。


「クズだよ、俺は。どうしようもないクズ」