ずっしりと重い鞄を肩にかけようとしたところで、横から呼ばれた。

狼谷くんの顔を真正面から見るのは未だに苦手だ。
なんというか、気恥ずかしくて、むずむずする。

でもこの前に「ちゃんと見る」と約束してしまったし、破ったら私はきっと針を飲まなきゃいけないし。

半ば諦めのような感情でゆっくりと彼を見上げると目が合って、体温が一気に上昇していくような気がした。


「あ、と、図書室、行こっか」


誤魔化すようにそう言ってから、反射的に目を逸らしてしまう。
やっちゃった、と内心焦ったけれど、狼谷くんは特に咎めるわけでもなく「そうだね」と頷くだけだった。


「あの、ごめんね。わざわざ時間割いてもらっちゃって……」


図書室へ向かう道すがら、私は沈黙に耐えられずそう切り出した。

狼谷くんは部活に所属していないけれど、放課後はいつも誰かと遊びに行ったり、それこそ女の子とデートしたりっていうのを聞いたことがある。

他人に勉強を教えるなんて退屈な時間の使い方だろうな。しかも相手は私だし。


「気にしなくていいよ。むしろ俺が言ったんだから」