窓際でしっかりと睡眠を取っていたらしい彼は、むすっとした顔で教科書に視線を落とした。


『……羊ちゃんは、別』


何で今それを思い出しちゃったの私――――!?
一人で無駄に赤面し、頭を垂れる。

あの後、狼谷くんに手を引かれ、彼と二人で少し話をした。

変なところ見せちゃってごめんね、と狼谷くんは謝ったけれど、分かっててあそこに入ってしまった私が悪い。

それより何より、あの日から私は狼谷くんの顔をまともに見られなくなってしまった。
彼の顔を見ると、保健室での艶かしい声や雰囲気を思い出してしまって、とてつもなく居心地が悪くなる。

必死に目を逸らしても、なぜだか追いかけられているような錯覚がするのだ。
じりじりと焼かれるような、そんな視線を彼から感じる。

だからここ数日、私は努めて狼谷くんを視界に入れないようにしていた。
挨拶は交わしても、委員会で一緒でも、なるべく目を合わせないように。


「じゃあ今日はここまで。早めにテスト勉強始めておけよー」


チャイムが鳴って、先生がそう告げる。

教科書を閉じる音、椅子を引く音、話し声。
それらがたちまち伝染していって、休み時間の開始を教えた。