駅を出て少し歩いた。
ようやく息をしっかり吸えるくらい落ち着いてきた頃、ちょうど玄くんが足を止める。


「羊ちゃん。あれ、一緒に乗ってくれない?」


彼が指しているのは、閑静な街並みの中、一際輝いている観覧車だった。赤、黄色、緑、青。幻想的にライトアップされて、夜空を背にゆっくり回っている。

本当は喋れなくもなかったけれど、声がひっくり返りそうで、私はまた頷くだけだった。

沢山聞きたいことがある。あったはずなのに、今こうして彼と手を繋いでいるだけで心臓が温かい。

二人で観覧車に乗り込んで、腰を下ろす。
向かい合わせで座ったから、目のやり場に困った。それでも玄くんはずっと私を見つめていて、「羊ちゃん」と名前を呼ぶ。


「俺、今日ここに来る前、奈々と会ってきた」


奈々。彼の口からそれが飛び出した瞬間、体が強張った。
そんな私から目を逸らさず、彼は続ける。


「俺にとって奈々は、自分の分身みたいな感じで……だから、どうしても今まで無下にできなかった」


それから彼は、彼女について話し始めた。
境遇や過去について。きっと彼にとって打ち明けたくない部分もあったんだろう。途中詰まりながら、どこか怯えながら、それでも彼は包み隠さず話してくれた。


「奈々とは色々あったけど、今日ちゃんと終わらせてきた。もう会わない。さっき連絡先も消した」