道中はやっぱり、憂鬱でしかなかった。
そこかしこにカップルがいるし、みんな手を繋いでいるし、隣を歩いている。そうだ、本来そういう日なんだ。

駅に着いて、しばらくは広場に行く気になれなかった。
彼の顔を見たら、自分が自分じゃなくなってしまいそうだ。今度は彼との時間のカウントダウンが始まってしまう。


「よし」


いい加減ずっと動かずにいるのも寒くて、かじかむ手を動かしながら、私はようやく目的の場所に赴くことにした。

何度もカップルとすれ違って、早く切り抜けたくて、自然と早足になる。
いつも以上に賑わう広場。今までどんなに混みあっていてもすぐに彼を見つけられたのに、今日は視界の端から端まで目を凝らしても見つからない。

時間を確認する。五分前。いつもなら絶対に来ているはずの時間だ。
視線を動かして、顔を上げ――見覚えのある人影が一つ。


「坂井くん?」


思わず呟く。この距離で聞こえるはずもないのに、私の声に反応したかのようなタイミングで、彼はその目をこちらに向けた。

坂井くんの目尻が下がる。彼はゆっくりと歩み寄ってきて、それから寒さで赤くなった鼻を誤魔化すように笑った。


「白さん」