必死に俺の袖を縋った、か弱い手。零れ落ちてしまいそうな瞳。
赤く染まった頬や鼻先が扇情的に俺を煽って、危うく理性を飛ばしかけた。

やっぱり、綺麗だ。それでいて艶めかしい。
心臓が早鐘を打って、腰がぞくぞくと震える。

彼女の話を聞くふりをしながら、懸命に昂ぶりを抑えた。

森先生への文句を垂れる彼女は微塵も俺のことを疑っていないようで、九栗にすらその矛先は向けてくれなかった。
それとなく話の流れを誘導すると、彼女は即座に否定する。


「そんな……! 朱南ちゃんがそんなことするわけないよ!」


するかもしれないよ。ちょっとは疑ってよ。
もっと不安になって。怯えて、泣いて、それで俺に縋って。

ちょっと遠回しすぎただろうか。もっと分かりやすく、彼女の周りの人間を排除した方が効率的だったかもしれない。

しかし流石の彼女も、直接的な言葉には堪えたようだった。
ダメージの受け具合によって対応は変えようと思っていたが、その場で開かずにしまい込もうとしたときは少し焦った。
俺の前で泣いてくれないと意味がない。俺の知らないところで傷ついて、他の人間を頼って欲しくない。


「私……私、そんなに何か、したかなあ……」