能ある狼は牙を隠す



そう、おかしくなったんだ。これまでは彼女みたいな子がいても、私を優先してくれたのに。
夏あたりから、玄は私に見向きもしなくなった。


「おかしくありません。仮にあなたがそう思ったとしても、それを強制するのは違うと思います」


やけに鮮明な声が私を詰る。
その顔にはしっかりと憤りの色が滲んでいて、ああ、これはめんどくさいな、と息を吐いた。


「思い上がってんじゃねえよ。玄が今あんたと付き合ってんのはただの気紛れ。お遊び。いずれ私のところに帰ってくるから」


綺麗事だけで玄を理解しようとしているのなら、お門違いだ。
影は光にはなり得ない。日陰と日向は混ざらない。彼の闇を分かち合えるのは、唯一、私だけ。


「あなたは……玄くんと、前に付き合ってたの?」

「付き合うも何も、寝たよ。私が玄にとって、一番最初の女」


私の言葉に、目の前の空気が揺れた。
かまととぶって、どうせしたんでしょう。そう思って放ったセリフだったのに、彼女は分かりやすく傷ついた顔をした。

私は嘘なんてつかない。――って、もう時効でいい?


「言っとくけど。私、こないだ玄としたから」


ねえ玄、暴いてよ。見破って。玄が見つけてくれないと、私はもう誰も拾ってくれないんだもの。