「大丈夫?」


ぼんやりと立ち尽くしていたところに、背後から声が掛かる。
弾かれたように振り返ると、気遣わし気にこちらを窺う坂井くんと目が合った。


「えっ、あ、坂井くん、何で……」

「面談、ちょっと早めに終わったから」

「あ、そ、そっか……」


森先生との面談は毎日放課後に三人ずつで、私の後は確かに坂井くんだった。
話が全く纏まらず時間いっぱい使った私に対し、きっと彼はすんなりと終わったのだろう。


「ええと……ごめんね、邪魔しちゃって」


私の謝罪に、坂井くんは「いや、こっちこそ」と首を振る。


「タイミング悪くて申し訳ないよ。……それより白さん、本当に大丈夫?」

「え、ううーん……」


この大丈夫は、一体どういう意味合いなのだろう。彼がいつからいたのか分からないし、どこまで口を割れば良いのかも分からない。

一人で考えていても埒が明かないな、と諦めて、私は質問することにした。


「坂井くん、その……聞いた?」

「え? ああ……うん、ごめん。ちょっとね」


彼曰く、階段から下りてきてきて早々、壁際で詰め寄られる私を目撃したらしい。仲裁に入ろうか迷ったけれど、聞こえてきた会話の内容的に思いとどまったそうだ。


「結構えぐいこと言われてたなと思って。あれは流石に……ね。堪えるよね」