「狼谷玄くん、だよね?」


見覚えのない女子生徒だった。
クラスメートにすっかり怯えられ、岬以外とはあまり関わらなくなった俺に、わざわざ声を掛けてくる人がいるとは思わず驚く。


「私、隣のクラスの此花(このは)奈々。ごめんね、突然」

「……いや。何か用?」


重たく切り揃えられた前髪が印象的だ。
俺の問いに、彼女は妖艶に微笑んだ。


「何って……言わせるの? 酷いなあ」

「は?」


遠慮なく顔をしかめると、彼女が近付いてくる。そして俺の肩に手をかけ、耳元で言い放った。


「イイコトしようよ。私と」


これも後になって知ったが、俺には「女をとっかえひっかえしている」という噂もあったらしい。
そこそこ美人な女子高生に言い寄られ、健全な男子高校生だった俺は、興味本位で彼女と関係を持ってしまった。その後も流れに身を任せて色んな子と体を重ねたが、唯一、俺の素を知っているのは奈々だった。


「まさかプレイボーイって言われてた玄がチェリーだったなんてさあ、そんなん分かるわけないじゃん。言ってよ。そしたらもっと優しくしてあげたのに」

「言えるかよ。いきなり迫ってきたお前も大概だろ」


何度目かの行為のあと、奈々は「ねえ、玄」と俺を呼んだ。


「寂しいんでしょ」


私もだよ。彼女はそう言う。


「寂しいもの同士、仲良くしようよ」

「……散々やっといて何を今更」


それは俺がまだ、「太陽」を知らない頃の話だった。