「キスした?」


遠回しな聞き方は苦手だ。
嘘をついても結局バレるし、自分に正直なのが俺の取り柄じゃない? とか思う。


「……してない」


玄は壁に背を預け、力なく座り込んでいた。
してない、か。だったら一体、どうしてそんなに恍惚とした表情を浮かべているのか切実に教えて欲しい。
明らかに情欲の滲んだ雄の顔に、少し気まずさを覚える。

風呂上がり、バスケ部のみんなでトランプでもしようと誘われた。
他クラスの部屋に直行し、しばらく居座っていたところで、充電器を取りに自分の部屋へ戻って。

入ろうとした瞬間、中から白さんが飛び出してきた。


『あっ……つ、津山くん、あの、じゃあね!』


顔を真っ赤に染め上げ、挙動不審な彼女。
駆けていく背中を呆然と眺めてから、はっはーん、と口角が上がる。

案の定、部屋の中では玄が一人、艶っぽいため息をついているところだった。


「ていうか、できない」


愚痴を零すかのようにそう呟いた哀れな友人に、俺は肩をすくめる。


「純粋すぎて、手ぇ出せない?」

「……いや、」


否定の文言が途中で切れた。
まあそれもあるけど、と数秒の後付け足して、玄は続ける。


「どっちかっつーと、俺がやばい」