さっきからトスをあげてもらったり、サーブを打ったり、その度にボールがあっちこっちへ飛んでいってしまう。

九栗さんは、あはは、と首を振った。


「いいんだよ、できないから練習してるんだし。私もさっきのトスうまくあげられなくてごめんね〜」

「と、とんでもない! 頑張ります……」


温厚な彼女に感謝していると、奥のコートから男子の騒ぎ声が聞こえてきた。
確かあっちではうちのクラスの男子がバスケの練習をしていたはずだ。

ちょうど一試合終わったところのようで、みんなが散り散りになって座り込んだり水分補給をしたりする様子が伺える。

何やら大きな声で心底愉快そうに友達と笑っているのが津山くんで、そこから少し離れたところで一人ペットボトルを煽っているのが狼谷くん。


「だーれ見てんの?」

「えっ」


突然横から問いかけてきたカナちゃんに、心臓が跳ねる。

狼谷くんは普段から着崩している制服のネクタイをさらに緩めていた。
ボタンもいつもは一つだけなのに、今は二つ外している。
肘のところまで雑に腕まくりをしていて、白い肌が目を引いた。


「あー、でも分かるな。うちのクラスの男子顔がいいから、ついつい見ちゃうよね」