と聞いたのは、彼女から差し出されたものが絆創膏だったからだ。

恐る恐る受け取ろうとして手を伸ばすと、それはするりと逃げていってしまう。
カナちゃんは絆創膏の剥離紙を剥がしながら、「そのまま前向いてて」とぶっきらぼうに言い放った。

言われるがまま固まっていると、首筋に粘着質のものが張り付く感覚がして――こんなところに傷があったんだろうか、と不思議に思う。


「ごめん、ありがとう……全然気付かなかったよ」


毎朝鏡を見るというのに。まあでも、正面ならまだしも首の横側はあまり注視しないから、気付かなくても仕方なかったのかな。

とりあえずお礼を述べると、カナちゃんは何とも複雑な表情で「ああ、うん」と目を逸らした。


「制服だとワイシャツの襟で隠れるしね。今日みたいに首周りあいてる服だと目立ってたから」

「そっかあ。助かったよ」


絆創膏の貼られたところを摩りながら返事をする。
どちらともなく再び歩き出して、二往復ほどたわいもない会話を交わした後、カナちゃんは私に問うた。


「羊さ、無理してない? 大丈夫?」

「え? 何が?」

「……いや、狼谷くんと上手くやってるかなあと思って」