僅かな時間も惜しくて、上靴のまま外へ転がり出た。

後夜祭の準備をしていたのだろう。十数名ほどが立ち尽くしていて、その隙間から見慣れない制服を身に纏った男子が一人、狼谷くんの胸倉に掴みかかっているのが見えた。


「てめえ、ふざけんじゃねえぞ!」


荒々しい語調で叫んだその人の後ろで、うちの学校の女の子が怯えたように様子を窺っている。

私は目の前にいた人の肩に手をかけ、息切れもそこそこに口を開いた。


「すみません、あのっ……何があったんですか?」


一瞬身を引いた彼は訝しむようにこちらを一瞥した後、「さあね」と眉根を寄せる。


「どうせまた人の彼女に手を出して、彼氏が乗り込んできたんでしょ。もうほんと迷惑だよ、こちとら忙しいっていうのに」


いま誰かが先生呼びに行ったから、余計なことしないで待ってた方がいいよ。
そう付け足した彼は、これ見よがしにため息をついた。

今日は校内への出入りが比較的自由だったから、他校の人もこうして侵入してきたのかもしれない。
殺伐とした現場に戸惑っていたその時だった。


「きゃ……!」


誰かの短い悲鳴が上がる。
ごっ、と鈍い音がして、狼谷くんの体が大きく傾いた。


「さっきから何黙ってんだよ! 何とか言えよ、ああ?」