ごめん、ごめん――本当にごめん、狼谷くん。
結局私は、自分が一番可愛いだけだった。


「はあ……」


教室に着くや否や、視線を左右に振って辺りを確認する。
先程よりもどこか騒がしい空気に、違和感を覚えて首を捻った。窓際に張り付いて外を見ている人がやけに多い。


「あ、九栗さん」


近くにいた彼女の肩を叩いて、私はせっつくように問うた。


「どうしたの? 何かあったの?」

「あ、えっ、白さん! おでこ大丈夫?」

「大丈夫! 外に何かあるの?」


早口な私に目を瞬き、九栗さんは頷く。


「ええと、今さっき他校の人が乗り込んできてね……狼谷くんの知り合いだったのかな? 何か外に出てっちゃったよ」


彼女の返しに、私は窓際まで駆け寄った。
玄関と校門の間。まばらではあるけれど、人だかりができていた。


「あ、羊。戻ってきた。派手にやったね〜、痛かったでしょ」

「ごめんあかりちゃん! また後で!」


横をすり抜けた私に、「え、ちょっと!」と焦ったような声が追い縋る。


「危ないよ! 下で狼谷と他校の男子、殴り合いしてるから!」


あかりちゃんの忠告を振り切って、私は廊下を走った。

もう迷わない。もう何も、怖くない。