彼の作品に描かれていたのは、端的に言うと「天使」だった。瞼を閉じ、両手を組み、何かを祈る天使の絵。

ほぼ完成まで出来上がっていたその仕上げを、部長は私に委託してきたのだ。彼の面倒をみていたから、という理由だったけれど、確かに妥当だとは思う。

せっかくだから彼の作品も展示しよう、という話になったのは、心優しい部員たちにとってはきっと当然の流れだった。カナちゃんは最後まで渋い顔だったけれど。


「……でも、私も犬飼くんの作品に向き合ってて分かったんだけど、絵を描くことは本当に好きだったと思うんだよね」


優しい筆遣いや、対象を見つめる真剣な目。それは確かに見受けられたし、絵を描いている時の彼が私は一番印象に残っている。

流石にちょっと、いやかなり、驚かされたことはあったんだけれども。芸術とか音楽とか、アーティスト気質の人は変わったタイプが多いと聞くし、彼も例外ではなかったのかな、とか思ったり。


「とりあえず何事もなくて良かったよ。持ってるのが筆じゃなくて包丁だったら、流石の私も怖くなっちゃうからさ」

「そ、それはないんじゃないかな……」