初めて聞く温厚な彼女の怒声に、心臓が縮んだ。
見上げたカナちゃんの顔は、激墳に染まっている。


「羊のこと好きでも何でもいいけど、泣かせてんじゃないわよ! 見て分かんないの? おかしいよ。あんたが何言ったって絶対におかしい。大事ならこんなに怯えた顔させないでしょう」


言われて自分の頬に手を当てると、薄ら濡れていた。
悲しかったのか、驚いたせいなのか。よく分からない。

カナちゃんは黙り込む犬飼くんに近づいていったかと思えば、次の瞬間、彼の頬を無遠慮に引っぱたいた。


「なに黙って突っ立ってるの。早く書いて」


犬飼くんが緩慢に床に座り込む。
カナちゃんはそれを見下ろしながら、私に告げた。


「羊。出てていいよ」

「カナちゃん……」


出した声も、踏ん張った足も震える。
懸命に息を吸って吐いて、それから背を向けて走った。

廊下に出てしばらく進んでから、壁際に力尽きてなだれ込むようにしゃがみ込む。

時間の感覚が曖昧だったけれど、膝を抱え込んでいた私を、カナちゃんが包み込むように抱き締めてくれたのは少し経ってからだった。

その日、廊下は酷く静かで殺風景で。自分のしゃくり上げる声がよく響いたのは、覚えている。