肩で息をしながら吐き出すと、沈黙が辺りを包んだ。
やけに静かな空気に不気味さを感じて顔を上げる。

その瞬間、息を呑んだ。


「――ああ、いま嫉妬しちゃったね。犬飼クン」


本能的な恐怖が、疾風のごとく全身を駆け抜ける。
うっそりと口角を上げる男に、目を見開いて固まった。

がらがらと音を立てて、自分の中の積み上げてきたものが崩れていく。

嫉妬。僕が先輩を好き。エゴだった。違う。違う違う全部違う。
僕は間違ってない。だって先輩は僕が守らなければいけないんだ。僕が、先輩を――

先輩を、囲っておきたかった?


「……邪魔を、するな」


そうだ。僕と先輩以外、この世界に必要ないじゃないか。それ以外は全部邪魔だ。だから排除するんだ。
先輩しか目に入らない世界。ああなんて素敵なんだろう。きっと綺麗に違いない。


「僕と先輩の邪魔をするな。塵屑野郎が」


心底煩わしい。憎たらしい。鬱陶しい。
こいつを排除するのもそうだが、白先輩にきちんと僕しかいないことを教えてあげなくては。


「……いい目になってきたじゃん。上等」


そう挑発して勝気に笑った男の視線が逸れる直前、細めた目に寂寞の色が滲んだ気がした。