たん、たん、と長い足が階段を上ってくる音がする。
その無機質な瞳は僕を捉えたまま。ふと男の顔が傾いて、耳元で冷酷な声が告げた。


「お前が彼女を女として見てるからだよ」


強い拒絶反応が全身を駆け巡る。
眼前の肩を突き飛ばそうと反射的に上げた腕を、男の手に止められた。その指が食い込み、痛覚を伝えてくる。


「お前は彼女が好きなんだ。だから俺に嫉妬した。彼女を自分だけのものにしたくて、俺を排除しようとした」


違う。僕がそんな浅ましい感情を先輩に対して抱くわけがない。
先輩は美しいんだ。綺麗なんだ。好きだなんて、そんな色恋の縺れを持ち込むことは許されない。


「離せ」

「いい加減認めろよ。お前の綺麗事は、ぜーんぶ机上の空論だ」

「離せっ!!」


叫んで腕を振ると、ようやく解放された。
男は涼しい顔で僕を見下ろしたまま、淡々と述べる。


「まるで癇癪起こした子供だな」


その、顔が。どこまでも蔑むような目が。一つひとつが、全て、気に障る。


「うるさい――うるさいうるさい! お前なんか白先輩につり合わないんだよ! 大体、女なんて腐るほどいるくせに……自分の女くらい、自分のテリトリーで見繕えよ! こっちに踏み込んでくるな!」