は、と短く息を吐き出した男が苦く笑う。

皮肉を言ったわけではない。僕は本当に感謝しているのだ。

こいつに先輩との時間を邪魔された日、早急に手を打たなければならないと悟った。
次の日、すれ違いざまに「白先輩に寄るな」と忠告してやると、意外にも素直に従ってくれたのだ。

不服そうに僕を睨んだだけで返事はなかったが、行動に移してくれたようだから許す。同じ委員会ということもあって事務的な会話は交わしているものの、以前のように執拗にちょっかいをかけることは止めたようだ。

なんて効率の良い害虫駆除。これでまた心置きなく平穏な日々を送ることができるはずだった。

それなのに。


『狼谷くんをそんな風に言わないで!』


ここ数日、部活に顔を出さず塞ぎ込んでいる白先輩は、一人で静かに泣いていた。
彼女は心優しい。クズにも同情の涙を流している。

それなのに、なぜ。なぜこの男を庇う?

手当り次第女に手を出しては、冷ややかな目でせせら笑うこのクズを。気に食わないことがあれば殴って蹴って、人を見下すこの糞野郎を。

悪影響だ。白先輩に害を及ぼす猛毒。
可哀想に。先輩はきっと騙されているんだ。一刻も早く、僕が手を下さなければ。


「白先輩の前から消えてくれません? 穏便に」