どこか振り切ったようにそう零した彼に、私はその時一番の恐怖を感じた。
彼がすごく遠くて、背を向けたままもう戻ってこないのではないか。そう思わずにはいられなくて。

私はきっと、狼谷くんがいなくなってしまうことを何より恐れている。
物騒でも凶暴でも野蛮でもいい。何でもいい。彼に目を背けられるのが一番堪える。

――そして今、まさに狼谷くんは私から距離を置いているのだ。

無視をされるということはないけれど、どこか他人行儀で表面的な会話。交わらない視線。人一人分の間を空けて歩く彼。

クラスメート、と呼ぶに相応しい。私はもう彼の友達ですらなく、クラスメートの一人になってしまったのだ。


「白さーん。ちょっとこれ確認してもらってもいいー?」

「あ、うん! 今行くね!」


九栗さんに呼ばれて立ち上がる。


「ごめんカナちゃん、私あっち見てくるね。あと五枚なんだけどお願いしてもいい?」


机の上の画用紙とカッターを指さして、私は手短に頭を下げた。
カナちゃんは「いいよー」と鷹揚に手を振る。


「羊、あんまり無理しちゃだめだよ」


困ったように微笑む彼女の表情に、胸の内を全て見透かされているような錯覚に陥る。

ありがとう、と返して、私は頬を緩めた。