羊ちゃんのせいだよ。君が現れてから、俺は自分が自分じゃなくなっていく。

制御がきかない。ブレーキは壊れた。後ろは絶壁、前も広大な海が広がるばかりで。
そこに飛び込めたらどんなに楽だろう。いいよ、おいでって。絶対に俺を受け止められるわけがないのに、羊ちゃんはそう言うんだ。

傷つけたくない。羊ちゃんには笑っていて欲しい。
まだ醜くも彼女に好かれようとしている俺が、彼女に手酷くすることを許さない。

だめだ。諦めろ。彼女に愛されたいなんて夢は、もう捨てろ。

好きで好きで仕方ないはずなのに、その顔を近付けても鼓動は高鳴らなかった。絶望に揺れた瞳が視界に入って、ただただ胸の奥が痛いだけだった。


「……羊ちゃん」


頼む、泣かないでくれ。酷くできなくなるじゃないか。
笑わせたいと思うのと同じくらい、ぐちゃぐちゃに泣かせたいと思っていたはずなのに。そんな風に泣かせたいわけじゃなかった。


「どうして泣くの……」


馬鹿な問いだ。どうして、なんて。決まってるだろう。俺がそうさせたんだ。
彼女を傷つけて、裏切って、全部終わらせてしまったんだ。

その傷はどれぐらいもつ? 癒えたら他の男のところへ行く?


「ごめんね。もう、……全部やめるから」


こんな方法でしか手放してあげられなくて、ごめん。