「何してんの?」


先程から下駄箱で不審な挙動を繰り返す人影に、俺は端的に問うた。

クラスの作業やら委員会の仕事やら、朝から動きっぱなしで少し疲れていた自覚はある。
今もようやく作業を終えて帰宅しようといったところで、ちょうど自分のクラスの下駄箱付近でうろつく女子生徒を一人見つけた。しばらく観察していたが、一向に去る気配がなく、痺れを切らして声を掛けたのだ。

それと、もう一つ。声を掛けたのは、ただ単に早く帰りたいからという理由だけではなかった。


「玄……!」


振り返って俺の名を呼んだその表情は、焦燥と期待に染まっている。


「そこうちのクラスの場所なんだけど。何で奈々(なな)がいんの?」


彼女が立っているのは二年三組の下駄箱、それも女子の。そして見間違いでなければ、ある一つの場所を執拗に気にかけていた。


「やっと会えた……。ねえ、何でいきなりブロックしたの? 学校でも全然相手してくれないし……」


言いつつこちらへ近付いてくる奈々に、俺はただ事務的に質問を繰り返す。


「何でいんのって聞いてんだけど。さっきからそこで何してんの」