がたん、と盛大な音を立てて、思い切り身を引いてしまった。膝を机にぶつけて、若干痛い。

まさか名前を呼んだだけで叫ばれるとは思わなかったのだろう。私の反応に目を丸くした狼谷くんから、慌てて顔を逸らした。


「あ、えっと、私あっちを手伝ってこようかなって……だから、ここは二人に任せてもいいかな?」


しどろもどろにそう述べて、津山くんを見やる。とても狼谷くんの顔は見れそうになかった。


「え、いやまあそれはいいんだけど……」

「ありがとう! お願いします!」

「あ、ちょっと白さん……」


明らかに困らせているのは分かったけれど、これ以上この場にいてもヘマをするだけだ。
私は足早に立ち去って、カナちゃんとあかりちゃんの元に走った。


「あ、羊〜! ちょうど良かった。これインクかっすかすだから買い出しに行きたいんだけどさ〜……聞いてる?」


あかりちゃんがマーカーペンを振りながら私の顔を覗き込む。


「羊? 具合悪い? 顔真っ赤なんだけど」

「だ、大丈夫! ごめん、ぼーっとしてた……」


両頬を押さえて首を振る。

好きになっちゃだめ。だめ。だって、狼谷くんは――


『体だけの関係。そういう「友達」だよ』


沢山の女の子と、今も関わりを持っているんだから。
それをどうこう思う権利なんて、私にはない。