散々走って風に煽られたけれど、髪の毛ぼさぼさになってないかな。
そんなことが気になって、私は前髪を押さえながら挨拶を返す。


「あ、えっと……具合はもう大丈夫……?」


恐る恐る聞くと、狼谷くんは頷いて目を細めた。


「うん、もう平気。ありがとね、昨日」


こくこくと馬鹿みたいに何度も首を縦に振る。
彼の表情も声も優しくて、咄嗟に返す言葉が見つからなかった。

昨日のはなかったことにしろってことなのかな?
それとも、本当はまだ怒ってるけどこうして接してくれているんだろうか?

考えても答えが出るはずはない。
一人で首を傾げる私を横目に、狼谷くんは歩き出す。


「羊ちゃん、急がないと。遅刻するよ」

「あっ……うん!」


そうだった、チャイム鳴る前に教室入らないと遅刻だ!

慌てて靴を履き替えて、狼谷くんを追いかける。


「珍しいね、こんな時間に登校するの。寝坊?」

「わ、忘れ物しちゃって……」

「なに忘れたの」

「スマホとお財布……」


はは、と隣から笑い声が上がった。


「おっちょこちょいなんだ、羊ちゃんって」

「たまたま! 今日だけだよ!」


私の反論に、狼谷くんは「はいはい」と肩を揺らす。

その後、二人揃って教室に入った私たちは、好奇の目を向けられて。


「ねえ玄! あの子と付き合ってんの!?」


そんな女の子たちの追及に、狼谷くんはなんてことないように宣ったのだ。


「違うよ。友達」


と。