自分の作品を机に広げた犬飼くんは、隣に腰を下ろしてくる。
彼の人差し指に従って視線を下に向け、私は「うーん」と首を捻った。

正直言ってしまうと、犬飼くんは私よりも断然美術の才能がある。というか、ここにいる部員全員――部長を除いて――彼には及ばないと思う。

だから私は今まで犬飼くんに「アドバイスなら部長に貰った方がいいよ」と散々言ってきたのだ。その度に彼は決まって首を振った。


「僕、白先輩の絵が好きなんです」


真っ直ぐな瞳でそう言われてしまうと、悪い気はしないのが先輩というもので。

自分は何一つ人より秀でているものはないと思っていたし、絵に関してもそれは変わらないと思っていた。だけれど、初めてはっきり認めてくれたのが犬飼くんだったのだ。

彼は特に私に懐いてくれているようで、その様子を「ご主人様に尻尾を振る忠犬」だと揶揄されることもしばしばある。分からなくもない、と言ったら怒られるだろうか。

でも犬飼くんはいつも私を見かけたら満面の笑みで手を振ってくれるし、絵の感想で褒めてあげると物凄く嬉しそうに目を輝かせる。
素直で可愛いなあ、と常日頃思わずにはいられない後輩なのだ。


「あえて濃くするのもありかなって思うよ。濃くっていうか……明暗をはっきりさせるっていうか……」