「せーんぱい。考え事ですか?」


視界の横から、ひょこっとココア色の髪の毛が現れる。柔らかそうなその表面に、陽の光が反射していた。

彼の指摘通り、私はどうやら物思いにふけっていたらしい。
その証拠に、パレット上の絵の具の表面が少し固まっていた。


「あ……うん、ちょっとね。どうかしたの?」


ぼーっとしている間も、筆はきちんと握っていたようだ。
色付け途中の作品には変な跡も残っていないし、自分は随分お行儀よく静止できていたことが確認できる。

目の前で無邪気な笑顔を浮かべる犬飼くんに、私はようやっと我に返った。


「ほら、前に言ったじゃないですか、アドバイス貰いたいって。でも白先輩、今日部活来てからずっと上の空なんで」

「そ、そうだったね……ごめん……」


彼とは学年が違うのにも関わらず、廊下ですれ違うことが多い。部活の時ならきちんと見てあげられるから、とつい先日言い渡したばかりだった。


「あのですね。ここのタッチっていうか、材質を表現するにはどうしたらいいかなってずっと考えていて」