絶対楽しんでるじゃないの!
耐性がついてきたとはいえ、直球に言われてしまうとやはり恥ずかしい。

軽く笑っていた狼谷くんは、急に真剣な顔で呟いた。


「出したくないな……」

「え?」

「ううん。……一回味をしめると、人間って欲深くなるなと思って」


うーん、まあ、確かに。小学生の時はスーパーのプリンで喜べたけれど、今はケーキとかの方が嬉しいし。
ちょっと哲学っぽい話のような気もする。

割と真剣に考え込んでいたその時。

がちゃ、と奥の方から扉の開く音がした。それからすぐに足音が近付いてきたかと思えば、


「ただいまー。あら?」


オフィスカジュアルで姿を現した、一人の女性。ダークブラウンの髪を後ろで纏めていて、切れ長の目元が狼谷くんに似ていた。

私と狼谷くんの顔を交互に見る彼女に、狼谷くんが口を開く。


「今日は早いね、母さん」


お母様じゃないですか――――!
思考停止状態だった頭を内心思い切り引っぱたいてから、私は勢い良く立ち上がる。


「あ、あの……すみません、お邪魔してます! 私、狼谷くんのクラスメートの白 羊です! 勝手にご飯まで頂いてしまって、本当にすみません、いつもありがとうございます……!」