だって、耐えきれずに逸らすのはいつも私だ。彼は手馴れているから、どうってことないんだろうと思っていたのに。

怖い、とは微塵も思わない。たまに強引な時もあるけれど、基本的に狼谷くんは優しくて温かい空気を纏っている。最近は特にそう思うようになった。
だからこそ、躊躇なく「可愛い」なんて言えたのだ。


「……ねえ羊ちゃん」


やけに落ち着いた声。
自身の手で顔を覆っていたはずの狼谷くんは、指の隙間から私を視線で射抜いた。

まずい、と。脳が警鐘を鳴らす。


「こうして二人でご飯食べてると、同棲してるみたいだね?」

「どっ、」


同棲って。急に突飛な単語が彼の口から飛び出してきた。

狼谷くんの口角が上がる。私を困らせる時の顔だ。


「ほんとにしちゃおっか。真似事だけじゃそのうち足りなくなってくるなあ……」


足りなくなるとは!?
爛々と輝く彼の瞳の奥が、底なし沼のように暗い。


「あ、赤くなった。……可愛い」


私に言われたことを根に持っているのか。仕返しがしたかったのか。
あっという間に形勢逆転されてしまった。


「可愛いよ、羊ちゃん」

「狼谷くん……!」