狼谷くんの顔が目の前に迫る。
反射的に体を反らして、私は情けない声を出した。


「そんなに緊張しないでよ。正座もしなくていいから」

「あ、は、はいっ」


正座は完全に無意識だった……。
どもる私に、狼谷くんはくすくすと肩を揺らす。

とりあえず一口お茶飲んで落ち着こう。
いただきます、と軽く頭を下げてグラスに手を伸ばした。

口に入れた瞬間、思わず目を見開いてしまう。
――わあ、これおいしい! オレンジティーだ……!


「ふふ、おいしい?」


目敏く私の表情の変化に気付いた狼谷くんが、嬉しそうに問うてきた。
何度も頷いて、私は力強く肯定する。


「普通のお茶かと思ってたからびっくりした! オレンジ好きなんだあ……おいしい!」

「そっか。良かった」


こんなお洒落な飲み物いつも常備してるのか……やっぱり狼谷くんって高貴だ……。
感動しながらそんなことを考える。

そわそわと落ち着かなかったのは最初だけで、勉強に集中してしまうと余計なことに気を回す必要がなくなった。

時計の秒針の音と、クーラーの機械音。
周りの音がよく聞こえるようになってきたのは、分からない問題にぶつかった時だった。


「あ、あの、狼谷くん」