何だ、そうなんだ。
ほっと一息つきかけて、いやいや違うとかぶりを振る。

いま誰もいないから? それは、つまり。


「どうぞ。座って待ってて」

「あ、うん……」


通されたのは狼谷くんの部屋で、彼はそう言い残すと立ち去ってしまった。

あまり人様の家の中をじろじろ見るものじゃないけれど、気になって視線を左右に振ってしまう。

青色のカーテンが涼し気な印象だ。壁に沿った本棚には漫画や雑誌の他に、文庫本もびっちりと収まっている。
物自体が少ないというか、余計な物は置いていないんだなあといった感じ。きっと私の部屋の方が整理整頓できていない。


「お待たせ」


トレーを持った狼谷くんが戻ってきた。
彼はそのまま腰を落とすと、グラスを二つテーブルに置く。
からん、と心地よい氷の溶ける音がして、ようやく私は「ありがとう」と声を上げた。

危ない。気を抜くと見入ってしまう。
狼谷くんは一つひとつの動作が綺麗で、今もウェイターのようなスマートさだった。


「……羊ちゃん?」

「ひぇっ」