と、自分から切り出そうとして言い淀む。
羊はこちらを振り向いて、不思議そうに首を傾げた。

夏期講習の辺りから、やけに羊に話しかけるようになったクラスメイト――狼谷玄のことについて。
聞こうか聞くまいか、少し思い悩む。

狼谷くんといえば、悪い噂しか聞かない。
彼氏持ちの子ともお構い無しに関係を持ってカップルを拗れさせただとか、気に食わないことがあるとすぐ手を出すだとか。

不幸にもジャンケンに負けたせいで狼谷くんと同じ委員会になった羊を、実はクラスのみんなが心配していた。

羊は「狼谷くんと歩いてたら、キラキラした女の子に睨まれる……」と最初の方こそ怯えていたけれど、それは極小数の女の子だ。
大多数の人が腫れ物に触るかのように狼谷くんを扱っているし、絵に書いたような問題児よりも、真面目で大人しい羊に同情票は集まっていた。

だから、羊が彼と登校していた日なんて、あかりと共に目をひんむいた。


『私、狼谷くんと友達になったから、大丈夫だよ』