ぽつりと、隣からそんなことを聞かれた。


「え? 何で? 何が?」

「カップル向けイベントってこと、黙ってたの、怒んないの?」


狼谷くんが不安げに瞳を揺らす。
何で私が怒ると思ってるんだろう。彼の聞きたいことがいまいちよく分からない。


「んーと……狼谷くんは、気を遣ってくれたんだよね?」


ここまで伏せてたってことは、そういうことなんじゃないのかな。
変な空気にならないように、普通にお祭りを楽しめるように、配慮してくれていたってこと。


「今日一日、ほんとに色々ありがとう。すごく楽しかったよ!」


いつかちゃんとお返ししないとなあ。
そう思いながら、私は夜空を見上げる。

一層低い音が鳴って、大きなハートが暗闇を照らした。


「――大好き」


花火が打ち上がったと同時。
狼谷くんが言い放った単語に、頭が真っ白になる。


「え……?」


彼の方を向くと、しっかりと目が合った。


「って、言うと別れないってジンクスがあるんだって。花火が打ち上がった瞬間に」

「……あっ、そ、そうなんだ……!」


ほんの一瞬、狼谷くんの瞳に囚われて動けなくなってしまったような気がして。
息を吹き返したように、体中どくどくと血が巡り出す。

無造作に放り出していた手を握られ、「これもジンクスだよ」と微笑む狼谷くんに降参したのは、その数分後だった。