そう言った途端、彼は目を見開いて、それからすぐに泣きそうな顔をした。
頬がほんのり赤らんでいる。電車と外との気温差のせいかもしれない。
「……はあ……もう、好き……」
「へっ!?」
突然、狼谷くんが苦しそうにそう零した。
ペットボトルを持っていた手首を捕まれ、心臓が大きく跳ねる。
「…………これ、好きなんだよね。ありがとう」
飲み物のことか……!
とんでもない勘違いをしそうになった。
動揺しすぎて「どういたしまして」もまともに言えない。
「あああの、狼谷くん! い、行こう……?」
とにかく切り替えないと。出だしからこんな調子でどうするの、私!
せっかく狼谷くんは純粋に友達として慕ってくれているんだから、普通に接しないといけないのに。
「うん……羊ちゃん、」
「ん?」
「今日お下げなんだ。可愛いね」
する、と狼谷くんの手が私の髪を撫でる。
その手つきも、声色も、表情も。蕩けそうなくらい甘くて、その場に固まってしまった。
「服も、可愛い。全部可愛いよ」
可愛いの大出血セールなんですが――――!?
息をするように褒める彼に、こっちは息が止まりそうだ。
「行こっか」
先程までの切羽詰まった様子はどこへやら、狼谷くんは嬉しそうに歩き出した。



