「おい、玄。いい加減開けろよ」


自分の部屋のベッドに寝転んでいると、そんな声がドア越しに飛んで来る。
返事のない俺に、岬は昨日と同様「明日は来いよ」と言い残して帰っていった。

あの日、どうやって帰ったのかも、家に着いたあとどうしたのかも、全く覚えていない。

確かに感じたのはずっと胸を刺し続ける痛みだけで、自分は死ぬのだろうかと本気で思った。

週明け、学校に向かう気力も体力もなく、丸一日サボった。
思えば久しぶりだ。最近は朝から夕方までちゃんと受けていたから。


『狼谷くん、すごい……何者……?』


閉じた瞼の裏に、羊ちゃんの顔が浮かぶ。


『わ〜……ほんとに魔法みたいだよ、やっぱり狼谷くん魔法使いなのかなあ……』

『やっぱりって何』


目をぱちくりとさせて、興奮気味に俺を評価した彼女。
そのあどけない笑顔は今でもはっきりと思い出せる。

笑ってくれるのが、褒めてくれるのが嬉しくて、積極的に彼女を探すようになった。
目が合った時、ふわりと柔らかい笑みを零す様がどうにも忘れられない。

分かってる。
今まで経験したことのない胸の高鳴りは、彼女に対する自分の気持ちを表すのに十分すぎた。


「あー……まじか」