う、と喉の奥から変な声が出そうになった。

こんな間近でイケメンの眩しい笑顔を見て平然としていられるほど、私の心臓は丈夫にできていない。


「羊ちゃん、顔赤いよ。大丈夫?」


俯いた私を追い込むように、狼谷くんはそう問うてくる。
逃れたくて顔を背けると、耳元に吐息がかかった。


「ここも、真っ赤……」

「ひゃっ」


囁かれるのはだめだ。なんかもう、だめだ。
頭が真っ白になって、ぐずぐずになってしまいそうだから。


「可愛い声」


そう言って愉しそうに目を細めた狼谷くんは、私の頬を撫でた。
彼の手が冷たくて気持ちいい。


「か、狼谷くん……!」

「うん?」

「帰ろう! 送るから! 傘は持ってるから!」


どうにかこの雰囲気を打開したくて、私は声を張る。


「……そうだね。帰ろうか」


頷いてくれた狼谷くんに、ほっと胸を撫で下ろした。


「ごめんね、折りたたみ傘だから小さいけど……」


玄関で傘を開きながら謝ると、彼はなぜか嬉しそうに首を振る。


「いいよ。ほら、濡れちゃうからもっとこっちおいで」

「わっ……」


肩を引き寄せられて、心拍数が上がっていく。
俺が持つよ、と私の手から傘を奪った狼谷くんは、隣で終始ご機嫌のようだった。