瞬間、黒板の方からカラン、と音が鳴る。

そこでは狼谷くんがちょうど名前を書いているところで、その途中でチョークが折れてしまったようだった。


「あ、決まったら黒板に書きに行くみたいだね」


カナちゃんが言いつつ腰を上げる。
その後を追いかけて教卓のところまで来たところで、津山くんの声が聞こえた。


「……玄。早く書かないと」


狼谷くんは黒板に書いた自分の字を真っ直ぐ見つめている。
折れたチョークの先が砕けてしまいそうな程に、彼の指には力が篭っていた。

少し異質な彼の様子に訝しむも、他の人は特に気に留めていないようで。
何だか思い詰めたような、そんな横顔に見えたのは気のせいだろうか。

とそこまで考えたところで、狼谷くんに勉強を見てもらったお礼をちゃんと伝えていないことに気がついた。


「狼谷くん」


彼の横まで歩み寄って呼びかける。刹那、


「あ――」


私を映した瞳は、酷く悲しげで、大きく揺れていて。
まるで打ちのめされたように、絶望に滲んでいた。


「……狼谷、くん?」


どうしたの、と。果たして声に出せていたのかいなかったのか。

即座に顔を逸らした彼が、背を向けて席に戻っていく。

狼谷くんはその日、出会ってから初めて私の問いかけに答えなかった。