能ある狼は牙を隠す



九栗さんの元気な返事を聞いて、立ち上がる。

視線を感じて狼谷くんの方へ顔を向けると、彼は私の顔をじっと見つめていた。


「狼谷くんも、何かいる?」

「え?」

「ついでに何か買ってくる?」

「……いや、大丈夫だよ」


気を遣われてしまったんだろうか。どうせ行くんだから頼んでくれても良かったのに。

私は教室を出て、いつも使っている階段とは逆の方から下の階へ降りることにした。
狭くて急な階段だけれど、こっちの方が近い。

ゆっくり降りていって、ちょうど二階に差し掛かった時、前の方から会話が聞こえてきた。


「いや確かにさあ、顔はいいと思うよ。でもあれは完全に観賞用でしょ」


あれ、この声は。
聞き覚えがあるな、と思ったら、クラスの女の子だ。


「まあ恋愛対象には入らないよね〜。てか普通に怖いし。白さん可哀想」


突然自分の名前が登場して、静かに飛び上がる。
そのまま通過しようにも、話題に上がってしまっては気まずくてできそうにない。


「こないだもさ、学校の前で綺麗な女の子と、あと多分その子の彼氏? と三人で修羅場みたいになってたわ」