どうしてそんな当たり前みたいに走ってくるの。
何で俺なんかの誕生日一つ、おめでとうを言うためだけに、バス逃したの。

どうしてこんなに、堪んない気持ちにさせるの。


「あー、何だよそれ……まじか……」


分からない。羊ちゃんを見ていると分からなくなる。

俺にとって女の子は遊ぶ対象かそれ以外で、羊ちゃんは完全に「それ以外」のはずだった。
色気なんてないし、そそられないし、勿論タイプじゃない。

誰からも好かれるようなおおらかな性格で、少し危なっかしいことを平気でやらかす。
だからちょっとだけ気掛かりで、最初は本当に妹のような感覚だった。


『自分の体を一番労わってあげられるのは自分だけだからさ。昨日頑張った分、今日はお休みあげてもいいんじゃない?』


飼い犬に手を噛まれるような、そんな衝撃を受けた。
予防線を張ったつもりが、いとも容易く壊された。

真面目で純情で、潔癖。
大体そんなところだろうと打算をしていたら、酷い目に遭った。

とんでもない。彼女の方が何枚も上手だった。
下手な俺の自衛になんて目もくれず、丸ごと包み込んでしまう。

時折驚くほど大人びているのに、いざとなるとへっぴり腰ですぐに萎縮する。