またデートか、と茶化してくる岬を無視して椅子に座った。


「はいはい、いいですね玄くんは。どうせ女の子に囲まれて誕生日の夜を過ごすんでしょ」


やさぐれモードに入ったバスケバカは、ため息をついて前の席に腰を下ろす。

本当は図書室でクラスメートの勉強を見ることが「先約」だと言ったら、どんな顔をするだろうか。
まあわざわざ教えてやる必要もないが。

確かに去年の誕生日は、適当に女の子と遊んでいた気がする。
いや、最早それが誕生日の記憶なのかすら危うい。

それくらい自分にとって誕生日は特別感の薄れたものと化し、今年も大して感慨も何もないはずだった。

――彼女が必死に駆け寄ってくるまでは。


「お誕生日おめでとう!」


上がった息を整えることもせず、こちらを見据えて彼女は大声を出した。


「ごめん! さっき狼谷くんのスマホ見ちゃって……誕生日だって分かったんだけど、言ったら変に思われちゃうから言えなくて……」


やはり少し苦しいのか、段々と俯きがちになる彼女に、俺は呆然と立ち尽くす。


「勝手に見てごめん! でも、やっぱりおめでとうだけは伝えたかった!」