自分が抱えながら、今まで隠してきたものを、全部見せずにこんなことを言うのは違うと分かっていた。


でも、千歳くんが自分のことをそんな風に言うことが、ただ哀しくて、しかたなかった。




「…あたしは、千歳くんの指先が欲しい」




今のあたしにないものを、ダメだと感じて欲しくなかった。

千歳くんは、あたしが色にこころを感じていることを、“ 大切にして ” と言ってくれた。それを、覚えてくれているだろうか。


あたしが、今までくるしんできたもの。
自分で、自分を傷めつけてきた原因。


それを、肯定してくれた。



「ちょっと待って…、何言ってんの?」

「…」

「話が、まったく読めないんだけど」



千歳くんが言っていることは当たり前。メロンパンを食べているときに、自分の絵の話をされ、突然泣きながら怒られる。きっとそんな感覚。

あたしが勝手に想いを馳せて、嫌なことを思い出して、怒りと悲しさを飛ばしてしまっている。それは心から承知してる。


それでも、右手が痛くて仕方なかった。

千歳くんの世界があたしとは違っていて、それを嫌だともし感じているのであれば。

それを否定するために、あたし自身の心の鍵を開けることには、なんの抵抗もなかったんだ。



「千歳くん、あたしね、」



千歳くんの指先が、欲しいと感じる理由。

押し付けだとわかっていても、それをキミに、いつか伝えたかった。




「あたしね、自分で自分の右腕をころしたの」




千歳くんが、自分の世界でくるしむくらいなら、あたしの世界を差し出すことも、全然惜しくない。